樋口一葉/にごりえ
こんなに絶望的な文章を書く人が五千円札になるだなんて……
http://www.aozora.gr.jp/cards/000064/files/387_15293.html
五章より
…あゝ嫌だ嫌だ嫌だ、何うしたなら人の聲も聞えない物の音もしない、靜かな、靜かな、自分の心も何もぼうつとして物思ひのない處へ行かれるであらう、つまらぬ、くだらぬ、面白くない、情ない悲しい心細い中に、何時まで私は止められて居るのかしら、これが一生か、一生がこれか、あゝ嫌だ嫌だと道端の立木へ夢中に寄かゝつて暫時そこに立どまれば、渡るにや怕し渡らねばと自分の謳ひし聲を其まゝ何處ともなく響いて來るに、仕方がない矢張り私も丸木橋をば渡らずばなるまい、父さんも踏かへして落てお仕舞なされ、祖父さんも同じ事であつたといふ、何うで幾代もの恨みを背負て出た私なれば爲る丈の事はしなければ死んでも死なれぬのであらう、情ないとても誰れも哀れと思ふてくれる人はあるまじく、…久しぶりに読み返したがやはり凄まじい。
畳み掛けるようにして襲い掛かる絶望感。